看取りに向けた介護保険サービスの選び方

制度と手続き

― ケアマネが経験した2つの在宅支援ケースから考える

※本記事で紹介している事例は、
実際の支援経験をもとにしていますが、
年齢・家族構成・病状などの一部内容を修正しています。

「自宅で看取りを行う」ことを考えたとき、
初めての方はとても不安が大きいと思います。

本人の意向をくみ取ってあげたいけれど、
「病院や施設で見てもらった方が安心なのでは……」
と迷う方も多いのではないでしょうか。

正解は一つではありません。
だからこそ、どの介護保険サービスを、いつ、どう選ぶかで、
在宅で過ごす時間の質は大きく変わってきます。

この記事では、
私が実際に担当した2つの事例をもとに、
看取りに向けた介護保険サービスの選定を、
できるだけ具体的にお伝えしたいと思います。


ケース①:Aさん(訪問中心型)

肺がん末期・家族と同居

Aさん、男性、肺がん末期。
息子家族との同居でした。

知り合いの紹介でケアマネを担当することになり、
自宅での看取りはご家族にとって初めての経験。
一時入院した病院のソーシャルワーカーから、
往診医を紹介されていました。

初回の担当者会議には、
往診医・訪問看護・福祉用具事業所が出席しました。

家族は当初、
「本人にはがんの告知はしない」
という方針を決めていました。

しかし、終末医療の専門である医師から、
本人に告知が必要であることを丁寧に説明され、
その説得に家族も納得。

医師・家族同席のもとで告知が行われました。

穏やかな表情で
「そうだろう」
と頷かれていたAさんの姿が、今も印象に残っています。

様々な家庭があるので一概には言えませんが、
この事例では、告知は必要だったのだと思います。


医療サービスの選定

肺がんの終末期ということで、
特別訪問看護指示書が発行され、
訪問看護は医療保険での対応となりました。

訪問看護事業所には、
理学療法士や作業療法士も在籍しており、
ベッド上でできるリハビリを実施。

40分間付きっきりで対応してくれるリハビリは、
Aさんにとっても良い気分転換になっていたようです。


介護サービスの選定

Aさんはお風呂が好きでしたが、
思うように体が動かず、自宅での入浴は困難な状況でした。

そこで、介護保険サービスとして
訪問入浴を利用することになりました。

週1回程度、状態を見ながら、
持参した浴槽をベッド横に設置し湯を張り、
介護職員2人と看護師1人で入浴を行います。

「とても気持ちがいい」
と嬉しそうな表情をされていたのが、忘れられません。


福祉用具の選定

福祉用具は以下をレンタルしました。

  • 介護用ベッド
  • 褥瘡予防マットレス
  • 自宅移動用の車いす

最終的には病院で息を引き取る形となりましたが、
最後まで自分らしく、
家族に見守られながら過ごせていたと思います。

初めは不安だらけだったご家族も、
徐々に対応に慣れていき、
医師や看護師に日々の状況を伝える姿は、
とても頼もしく感じられました。

自宅での看取りを考え始めたとき、
まず不安になるのが「本当に自宅でできるのか?」という点だと思います。
在宅での看取りの現実や、家族の気持ちの揺れについては、
こちらの記事で詳しく書いています。

👉 看取りまで自宅で過ごすために必要な準備|在宅医療と家族の現実


ケース②:Bさん(訪問+通所併用型)

胃がん・肺がん末期/長男・長女と同居

Bさん、女性、胃がん・肺がん末期。
長男・長女と同居されていました。

こちらは引き継ぎで担当となった事例です。
私が関わった時にはすでに寝たきりで、
エアマットを使用していたにもかかわらず、
かかと・ふくらはぎ・お尻に褥瘡ができていました。

特にお尻の褥瘡はひどく、
骨まで見える状態で、毎日の処置がとても大変でした。

同居する長男と長女が助け合いながら、
できる限りの対応はされていたと思います。


サービス構成の違い

Aさんは訪問サービス中心でしたが、
Bさんの場合は、訪問と通所を併せて
最期の方まで生活されていました。

支援は本人だけでなく、
家族の意向もしっかりとくみ取りながら、
「家族が安心して自宅で生活できるか」
を常に基準に考えていました。

24時間介護する家族には、
休む時間も必要です。

そのため、

  • ショートステイ
  • デイサービス
  • 通所リハビリ

を組み合わせて利用していました。


医療・福祉用具の選定

自宅には、

  • 主治医の往診
  • 訪問看護

が定期的に入っていました。

福祉用具としては、

  • リクライニング車いす
  • スロープ
  • 介護ベッド
  • エアマット
  • 体位保持クッション
  • スライドボード

などをレンタル。

床ずれの処置がとても重要だったため、
報連相はとても密に行っていました。


最期の時間

「口から食事を食べてほしい」という
ご家族の思いから、
誤嚥性肺炎も繰り返していました。

それでも、医師・看護師・すべての関係者の協力もあり、
Bさんは自宅で最期を迎えることができました。

主介護者の長女は、
「家が大好きだった母の願いを叶えられて嬉しい」
と涙を流されていました。

通所にも行けるまで利用し、
あんなにひどかった褥瘡もすっかり治った状態で、
逝去されました。


看取りに向けたサービス選定で大切だと感じたこと

ここからは、
2つの事例を通して、
私自身が大切だと感じた視点をまとめます。


① ケアマネは「つなぐ役割」

ケアマネは自宅に訪問し、
介護保険サービスの調整を行います。

元の国家資格は、
介護福祉士・社会福祉士・看護師など様々で、
それぞれの専門的な見地はありますが、
利用者に直接介護を行う立場にはありません。

介護面・医療面のことは、
それぞれの専門職へつなげる必要があります。


② まず入れるべきは「訪問看護」

自宅で看取りを行う場合、
必ず相談する相手が必要です。

その相談相手は、
医療・介護の両面で
アドバイスをもらえる存在であることが必須です。

訪問看護は、
医師と本人・家族をつなぐ専門職。

多くの訪問看護事業所は
「緊急時訪問看護加算」という体制を整えており、
夜間でも急変があれば自宅に駆けつけてくれる、
とても頼りになる存在です。

自宅で看取りを行う場合は、
本人・家族の不安を取り除くためにも、
できるだけ早く訪問看護に入ってもらうことをおすすめします。


③ 福祉用具は「惜しまない」

自宅で快適に過ごすために必要な福祉用具も、
看取りには欠かせません。

  • 介護ベッド(ギャッジアップ機能つき)
  • エアマット
  • 介助柵
  • 手すり
  • 車いす
  • ポータブルトイレ
  • シャワーチェア

など、必要不可欠な用具ばかりです。

訪問看護や訪問リハビリの提案を受けながら、
状態に応じた福祉用具を選定していきましょう。


④ 通所・ショートは「最後まで使っていい」

通所やショートステイも、
本人が行きたい間、行けるうちは、
利用していいと思っています。

事業所のマンパワーで対応できなくなれば、
それは一つの「限界サイン」でもあります。

本人が辛くなければ、
気分転換として利用するのも一つの方法です。

本人にとっても、家族にとっても、
安心して自宅で生活を続けていくための、
大切な選択肢だと思います。


Q&A|在宅看取りに向けた介護保険サービスの選定

Q1. いつ頃からサービス選定を始めればいいですか?

A.
「まだ大丈夫」と思っている段階から、
相談だけは始めておいた方がいいと思います。

体調が急に悪化してからでは、
選べるサービスの幅が一気に狭くなります。

訪問看護や福祉用具などは、
早めに入れても「無駄」になることはほとんどありません。
むしろ、家族の不安を減らすという意味でも、
早めの準備が結果的に楽になるケースが多いです。


Q2. 家族の負担が大きくなりすぎないか心配です

A.
とても自然な不安だと思います。

在宅看取りは、
本人のためだけでなく、
家族が続けられるかどうかが一番大切です。

ショートステイやデイサービスを使うことは、
決して「逃げ」ではありません。

むしろ、
家族が倒れてしまったら、
在宅そのものが続けられなくなります。

「家族が限界を迎える前に、サービスを足す」
これが、在宅看取りを続けるための現実的な考え方だと思います。


Q3. 訪問看護は本当にそんなに早く入れた方がいいですか?

A.
私は、できるだけ早く入れることをおすすめしています。

訪問看護は、
医療処置だけをする存在ではありません。

  • 体調の変化を一緒に見てくれる
  • 医師との橋渡しをしてくれる
  • 家族の不安を聞いてくれる

「何かあった時に相談できる人がいる」
この安心感が、在宅看取りでは本当に大きいです。

特に夜間や急変時に対応してもらえる体制は、
家族にとって命綱のような存在になります。


Q4. 途中で在宅看取りを続けられなくなったらどうなりますか?

A.
途中で病院や施設に切り替えることは、
まったく珍しいことではありません。

Aさんのケースのように、
結果的に病院で最期を迎えることになったとしても、
それまでの時間が「失敗」になるわけではありません。

大切なのは、
「その時点での最善を選んだかどうか」だと思います。

在宅で看取れなかったからといって、
後悔する必要はないと、私は感じています。


まとめ|正解はない。でも後悔を減らす選び方はある

在宅での看取りに、
正解はありません。

でも、

  • 早めに医療(訪問看護)を入れること
  • 家族の限界を基準にサービスを組み立てること
  • 福祉用具を惜しまないこと
  • 通所やショートに行ける間は積極的に利用すること

この4つは、
どのケースでも共通して大切だったと感じています。

医療・介護サービスを上手に使いながら、
「いつでも相談できる体制」を整えていけば、
家族も安心して自宅での介護ができていく。

私は、この2つの事例を通して、
そう強く感じました。


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