Aさんが教えてくれた「生きる」ということ
※本記事で紹介している事例は、
実際の支援経験をもとにしていますが、
年齢・家族構成・病状などの一部内容を調整しています。
今まで多くの利用者さんと関わり、さまざまな経験をさせていただいてきましたが、
その中でも、今も心に深く残っている支援があります。
ケアマネジャーとしての私にとって、大きな糧となった支援です。
終活という視点で、今回ご紹介したいのは、
飲食店を経営していたAさん(女性)との関わりです。
Aさんは、自身の飲食店を切り盛りしながら、
自宅マンションで一人暮らしをされていました。
手術後、自宅に戻ってから始まった支援
私がAさんと関わり始めたのは、
十二指腸に見つかったがんの大きな手術を終え、
リハビリを経て自宅に戻られてからのことでした。
地域包括支援センターの職員さんからの紹介で、
担当させていただくことになったのです。
Aさんは淡々とご自身のことを話される方でしたが、
どこか自信がなく、今の現状をまだ受け入れきれていない様子が感じられました。
入院中から付き添っていた県外に住む娘さんと一時的に同居し、
身の回りのことは娘さんが担っていました。
失ったものと、取り戻したい日常
Aさんは、経営していた飲食店への復帰を目指していました。
しかし、入院と手術を経て、体重は20キロ近く減少。
体力の著しい低下から、廃業を余儀なくされました。
「家の中だけでも安全に歩けるようになりたい」
「ゆっくりでいいから、身の回りのことをまた自分でしたい」
その思いを叶えるため、週2回の訪問リハビリを開始しました。
少しずつ体力がつき、
「ご飯の量が少し増えた」
「伝いながらだけど、一人でトイレに行けた」
訪問のたびに、Aさんは嬉しそうに話してくださいました。
近所のスーパーまで、娘さんと二人で買い物に行けるようになったと聞いたとき、
私も本当に嬉しかったのを覚えています。
再び襲った病、そして続く生活
担当させていただいてから1年ほど経った頃、
今度は乳がんが見つかりました。
入院・手術を経て退院後、
手術の影響で肩の動きが悪くなり、痛みも残りましたが、
体の動きは維持できていたため、訪問リハビリを再開しました。
再び外出できるようになり、
Aさんの生活は少しずつ取り戻されていきました。
娘さんは県外に家庭があるため、
月に1度、数日間戻るペースに変更。
その間は、訪問看護やリハビリを調整し、
見守りをいつも以上に手厚くしました。
それでも、一人で過ごせるまでに体力も気力も回復された姿に、
私は心から感動していました。
それでも、病は容赦なく進む
しかし、病はAさんを再び襲います。
乳がん手術から数か月後、
肺への転移が見つかりました。
そこからが、Aさんの本当にすごいところでした。
化学療法を始めるとき、私にこう話してくれたのです。
「私が抗がん剤の経過を、身をもって教えてあげるからね。
いい勉強になるでしょ」
めまい、脱毛、吐き気。
副作用は、想像以上に強かったようです。
1回目の治療後、体力は大きく低下しましたが、
2回目の治療も受け、そして――
Aさんは治療をやめるという決断をされました。
その間、
県外に住む娘さんの家に泊まりに行ったり、
昔からの友人と会ったり、
「できるうちに、できることをする」生活を選ばれていました。
最期の選択と、別れ
訪問するたびに、少しずつ弱っていくAさん。
介護用ベッドへの切り替えを提案した日、
痰で話しづらい中でも、
Aさんは小さく首を振り、「いや」と意思を示されました。
体調がさらに悪化し、
面談後、定期よりも早く受診することになり、
そのまま緩和ケア病棟へ入院。
Aさんは、帰らぬ人となりました。
支援を通して、私が受け取ったもの
Aさんの支援を通して、
私は「生きる」ということを、真剣に考えさせられました。
訪問のたびに、
「これができるようになった」
「ここが痛くて苦しい」
淡々と話されるその言葉の裏には、
常に強い緊張感がありました。
訪問の前後、私の足取りが重くなるのが定番だったのも、
今思えば無理もなかったのだと思います。
死を前にして、
生きること、そして死ぬことを真正面から受け止め、
言葉を紡ぎ、現実と向き合う――
その姿に向き合うことは、
私にとって相当な体力と気力を要することでした。
中途半端な気持ちでは、決して向き合えない。
それは、Aさんの方が、私よりもはるかに辛く、
強い思いを抱えていたからです。
終活とは「生きる時間」を見つめること
Aさんの支援を通して、
私はケアマネジャーとして、少し成長できたと感じています。
人それぞれの人生に、
ケアマネとしてどう関わっていけるのか。
責任のある立場でありながら、
これほど深い人生に触れられることを、
「得しているな」と感じることもあります。
ケアマネとして、学ぶことはまだまだたくさんあります。
これからも、一つひとつの支援と真剣に向き合いながら、
歩んでいきたいと思います。
※シリーズについて
この記事は
「ケアマネが見てきた、忘れられない終活の現場」シリーズの第1回です。
今後も、現場で出会った人生から、
終活を「生き方」として考える記事を書いていきます。
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