歯の健康を守ることは、人生の楽しみを守ること 〜食べる喜びと口腔ケアの終活〜

日々と暮らし

「また、うなぎが食べられるなんて思わなかったよ」

そう嬉しそうに話してくれたのは、私が担当した80代の男性。訪問リハビリを通して、言語聴覚士の支援を受け、久しぶりに好物の「うな丼」を口にすることができたのです。

年齢を重ねると、どうしても食べる力が落ちてきます。噛む力や飲み込む力が弱くなると、むせやすくなったり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクも高まります。それでも、できるかぎり「食べること」を楽しんでもらいたい。今回は、そんな「歯の健康」と「人生の楽しみ」のつながりについてお話しします。


8020運動――目指すのは80歳で20本の歯

「8020(ハチマルニイマル)運動」とは、1989年から厚生労働省と日本歯科医師会が推進している、“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”という取り組みです。自分の歯が20本以上あれば、ほとんどの食べ物をしっかり噛んで食べられるとされています。

これは単なる数字ではなく、自分の歯で食べることが生活の質を保つカギだという考え方に基づいています。歯の本数は、食事だけでなく、発音や表情、さらには脳の活性化にも関わっています。


加齢や病気によって変化する「口の機能」

高齢になると、口の中の変化は避けられません。

  • 唾液が出にくくなる
  • 歯周病や虫歯が進行しやすい
  • 噛む力が弱くなる
  • 飲み込む力(嚥下機能)が低下する

また、脳血管障害やパーキンソン病などの病気を抱えている方は、口腔機能の低下がより顕著になることもあります。

でも、すべてが「仕方ない」で終わるわけではありません。今の機能を維持し、衰えを少しでも遅らせることは十分可能です。


言語聴覚士による訪問リハビリ――“食べる力”を取り戻す支援

冒頭のうな丼の男性もそうでしたが、「もう何でも食べられなくなった」と思っていた方が、リハビリによって再び“食べる楽しみ”を感じられるようになることがあります。

言語聴覚士(ST)は、「話す」「飲み込む」などの機能に特化した専門職です。訪問での支援では、

  • 嚥下(えんげ)機能の評価
  • 飲み込みを助ける姿勢や食事の工夫
  • 誤嚥性肺炎の予防
  • 口腔内や舌のリハビリ

といった支援を行います。

本人の「食べたい」という気持ちに寄り添いながら、その実現に向けて多職種で支える――それが今の在宅ケアのかたちです。


誤嚥性肺炎のリスクを減らすには?

誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液、胃液などが誤って気管に入り、肺に炎症を起こす病気です。高齢者の肺炎の多くが、実はこの「誤嚥性肺炎」だと言われています。

予防のためには、

  • 毎日の口腔ケア(歯磨き・舌の清掃)
  • 定期的な歯科受診
  • 飲み込みの機能チェック
  • 正しい姿勢での食事
  • 食材の工夫(とろみをつける、やわらかくする)

などが有効です。

また、本人だけでなく、介助者もリスクを知っておくことが大切です。介護現場でも「口腔ケア指導」や「嚥下指導」は重要視されており、歯科医師や言語聴覚士がチームでサポートする体制が広がりつつあります。


「食べること」は、人生の最期まで続く喜び

食事は、栄養を摂るだけでなく、楽しみや生きがいにもつながる大切な行為です。

「また、うなぎが食べられるとはねえ」

あの方の表情が忘れられません。ひとくち、またひとくちと大切に味わう姿に、周囲のスタッフも自然と笑顔になりました。

終活というと、「死への準備」と思われがちですが、“生きること”を大切にする準備でもあります。だからこそ、「食べる喜び」を守ることも立派な終活のひとつだと、私は思います。


おわりに

歯の健康、口腔ケア、そして“食べる力”――それらは私たちが最期まで自分らしく生きるために、なくてはならないものです。

今からでもできることを、少しずつ始めてみませんか?

年を重ねても、「おいしい」と笑える時間を、ぜひあなたにも大切にしてほしいと思います。


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